記憶保管所

ただの単発備忘録です

あのね!言語学って、なぁに?

おはようございます、さてさて今回は言語学編です。

 

餅は餅屋ということで、言語学について東京大学言語学を専攻しておられますtakaさんにお話を伺っていきたいと思います。

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takaさん twitterID:@taka81570210

 

―――よろしくお願いします。

 


 

taka (以下敬称略):よろしくお願いします。

 


 

―――初めに、言語学について大まかな説明をお願いします。

 

 


taka : 言語学とは、文字通り「言語」そのものに関する様々なことを研究する学問であり、言語の本質に迫る学問であると言えます。例えば、ほとんどの日本人にとって、日本語は身近な言語でしょう。また、ほとんど誰もが外国語として英語を学んだことがあると思います。それゆえ、私たちは日本語を基準にして英語を見たり、もしくは、英語を基準にして他の外国語を見たりして、「発音が違う」とか「語順が違う」とか言ったりします。しかし、これは言語学の取る姿勢とは少し違います。言語学では、もっと客観的な形で言語の姿をとらえようとします。

 


―――日本語以外の言語についても同様に考えることができるのでしょうか。

 




taka: 世界には、私たちの知らない言語もたくさんあります。文法などが全く異なる言語も多いです。ですが、そのように身近でない言語でも、その姿を正しくとらえて説明しよう、といった学問であると言えます。ですから、言語学を学ぶということは、言語を客観的に見るための「視点」を身につける、ということです(ただし、日本語と英語の対照比較を行うような研究がないというわけではありません。ですが、そのような研究も片方を基準にしたものではなく、俯瞰的な考察に基づくものです)。言語学は、「語学」の学習と異なるという点も述べておきます。

 


―――語学と言語学はどう性質が異なるのでしょうか。

 

 

taka : 言語学は既述の通り、言語そのものを研究対象とします。文法書を書くのも言語学者の仕事です。一方、語学はコミュニケーションの道具としての言語を使えるようになることを目的としていることが多いです。もちろん相互排他的ではないですが、言語学を学ぶことと語学能力には直接関係があるわけではありませんし、日本語・英語以外の言語を知っていなければならない、ということもありません。関心があれば、気楽に入門できる学問だと思います。

 

 

―――ありがとうございます。続きまして、takaさんの行っている研究の概要についてお願いします。

 

 

taka : 私はデンマーク語学を専門にしています。中でも、歴史言語学に興味があり、古い時代のデンマーク語(並びにゲルマン諸語全般)について研究しています。現在は、とりわけ古いデンマーク語の語順について、現代語と比較しながら調べています。

 

 

 

―――なぜデンマーク語学を専門として研究することとなったのですか?

 

 

 

taka : 元々ドイツ語に興味があり、大学に入ってからは第二外国語としてドイツ語を勉強していました。専門を決めようとなったときに、英語やドイツ語の属するゲルマン語派の言語をやりたいと思ったことと、でももう少しメジャーでない言語をやりたい、と思ったため、北ゲルマン語群に属するデンマーク語をやってみようという運びになりました。

 

 

 

―――ドイツ語及びゲルマン語派の魅力を教えていただけますか?

 

 

 

taka : 既述の通り、ゲルマン語派には英語が含まれています。中学や高校で英語を学んだ時に感じた疑問や英文法の知識などが、他のゲルマン語に触れることで繋がっていく時に喜びを感じます。英語はそれなりによく知った言語なので、類似点だけでなく相違点を見るのも楽しいです。ちなみに、英語はフランス語、ラテン語、古典ギリシア語などからも影響を受けているので、ゲルマン語だけでなく、私にとっては印欧語族全体が魅力的です。

 

 

 

―――研究されている間も以上のようなことに喜びを感じていますか?

 

 

taka : はい。楽しんで研究しています。

 

 

―――言語学を研究する中で印象に残ったエピソードなどはありますでしょうか?

 

 

taka : 具体的なエピソードかというと微妙なのですが、日々、言語に触れる中でふと気づくことが増えた気がします。例えば、若者言葉とかギャル言葉とかありますよね。ツイッター語みたいなのもそうです。こういった、普通の言葉遣いと違うとされる表現について、言語学をきちんと学ぶ前と後では見え方が変わりました。言語は日々変化するものであり、あちこちで見かける表現も決して「誤り」ではない。方言のようなものなのだろうと。そして、言語学的な考察の対象にできることは身の周りにいくらでもあるのだということに気づきました。このようなことをふと思ったときのことは、何となく印象に残っています。

 

 

―――言語の単語そのものの意味というよりは、言語の構造に敏感になることもあるのでしょうか。

 

 

taka : 個別具体的な事象より、言語全体を体系的に捉えようとするのか、という意味でしたら、その通りです。もちろん、具体的な例というのは重要です。しかし、それらを見つけて満足するのではなく、そこから何が言えるのかということを大事にしています。

 

 

―――人が言語を言語学として学ぶ意義をどう考えておられますでしょうか、個人的な考えで構いませんので教えていただけますか?

 

 

taka : 「言語を言語学を通じて見る意義」と読み替えてもよろしいでしょうか。「言語学“として”」というのが気になりましたが、言語学は言語を学ぶためのツールや、言語の一側面などというものではなく、言語の本質を探求するための学問です。上でも述べたのですが、言語学を学べば、客観的かつ相対的に一言語の体系を見ることができるようになるということが、一番の意義だと思っています。それを語学の勉強に適用すれば、副産物として文法の理解がしやすくなるといったこともあるかもしれません。

 

 

 

―――言語学初学者向けの本と、専門の言語学を学んでいる(専門の授業を受けたことがある程度の理解度の人でもかまいません)人向けの専門書があれば教えていただけますか。

 

 

taka : 完全な初心者なら、黒田龍之助 (2004)『はじめての言語学』(講談社現代新書)
窪薗晴夫 (編著) (2019)『よくわかる言語学ミネルヴァ書房
慣れてきたら、西村義樹野矢茂樹 (2013) 『言語学の教室』中公新書
斎藤純男・田口善久・西村義樹 (編) (2015) 『明解言語学辞典』三省堂
あたりを見ていくといいかと思います。後者は用語辞典です。
入門を越えると分野ごとに細分化していくので、一概にこれがいいとは言えませんが、
風間喜代三ほか (2004) 『言語学 第2版』東京大学出版会
あたりがいいかと思います。

 

 

―――ありがとうございます。
〆の言葉として何か読者に伝えたいことがありましたらお願いします。

 

 

taka : 言語は身近に存在しますが、奥が深いものです。ですが身近なぶん、言語学は気軽に触れられる学問だと思いますので、興味があれば是非入門書などを見てみてください。そうすれば、自分が毎日使っている言語への親近感がより一層増すかもしれません。